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大阪地方裁判所 昭和56年(わ)1171号 判決 1981年8月27日

主文

被告人鈴木を懲役四年及び罰金五〇万円に、被告人駒田を懲役一年八月に処する。

未決勾留日数中、被告人鈴木に対しては一四〇日、被告人駒田に対しては一三〇日を、それぞれその懲役刑に算入する。

被告人鈴木において右罰金を完納することができないときは、金二、五〇〇円を一日に換算した期間、同被告人を労役場に留置する。

訴訟費用は被告人両名の連帯負担とする。

理由

(罪となるべき事実)

被告人らは、共謀のうえ、法定の除外事由がないのに、営利の目的で、昭和五五年一〇月一六日、大阪市東淀川区《番地省略》A文化住宅内岡本勲方において、同人を介し、中村尚文らからフェニルメチルアミノプロパン塩酸塩を含有する覚せい剤結晶約五〇〇グラムを代金三〇〇万円で譲り受けたものである。

(証拠の標目)《省略》

(弁護人の主張に対する判断)

弁護人は、判示犯行に当って被告人らには営利目的はなかった旨主張するのでこの点について判断するに

一  被告人鈴木について

《証拠省略》によれば、被告人鈴木は山口組系加茂田組内鈴木組長であったが、昭和五五年一〇月始めごろ、組の上層部から押しつけられた覚せい剤五〇〇グラムの売捌きを加茂田組中勢連合会の本部長であった加藤武こと岡川忠昭に依頼し、その際両者間で岡川の右売捌きにより利益が出た場合はこれを同被告人六分、岡川四分の割合で分けることを取り決めたところ、岡川はこれを他の暴力団関係者に転売して二五万円の利益を得たので、右約に従って同被告人に対し右利益の分け前一五万円を分与したこと、その後の同月一三日ごろ今度は岡川の方から同被告人に対して覚せい剤五〇〇グラムの仕入れ方を依頼してきたので、同被告人は右依頼に応じ同人に転売する目的で判示犯行に及んだこと、同被告人はその際、右覚せい剤を岡川に転売すれば、前回の例もあるので、同人から何がしかのもうけの分け前又は礼金が支払われることを期待していたことが認められ、右事実によれば、同被告人は営利の目的で判示の覚せい剤譲り受けを行ったと認めるのに十分である。

二  被告人駒田について

被告人駒田は右鈴木組若頭であったが、判示の犯行に加功するに当って、自ら利得する意思もなくその期待もしていなかったし、又岡川から被告人鈴木に対する前記依頼の事情についても知らなかったが、被告人鈴木が入手しようとしている覚せい剤が五〇〇グラムという大量であったことから、同被告人が入手後これを他に転売して利益を得ようとしていることは察知していたこと、そして判示犯行に当っては、被告人鈴木の指示を受け、判示犯行日午前三時ころ判示岡本方において、同人を介して譲渡人中村との間で代金額とその支払い方法(代金三〇〇万円の内金一〇〇万円は即金で、残金二〇〇万円は遅くとも一週間後には支払う。)を定め、覚せい剤の現物を確認して取引の話を取りまとめたうえ、同日午前一〇時ころ改めて被告人鈴木とともに岡本方に出向いて、予め中村から右覚せい剤を預っていた岡本からこれを受取って被告人鈴木に手渡したことが認められる。してみると、被告人駒田において同組内の上下関係に基づく被告人鈴木の指示によるものであったにせよ、被告人鈴木において営利目的を有しているのを知りながら、右認定のように取引の重要な部分に積極的に関与して被告人鈴木の本件犯行に加功したものであって、右事情に徴すれば、同被告人が判示犯行に当って被告人鈴木に財産上の利益を得させる目的を有していたと認めるのが相当である。

ところで右のように第三者に財産上の利益を得させる目的が覚せい剤取締法四一条の二第二項に規定する営利の目的に含まれるかどうかについては、一般に営利目的犯における営利の目的とは、自己のため財産上の利益を得、又は第三者にこれを得させる目的をいうと解すべきところ(刑法二二五条営利拐取罪につき右同旨が通説である。団藤・法律学全集刑法各論二六五頁、福田・警察研究三九巻八号一二七頁、注釈刑法(5)二八三頁、東京高裁昭和三一年九月二七日判決・高等裁判所刑事判例集九巻九号一〇四四頁等)、特に覚せい剤取締法においてにわかにこれと別異に解して右のような他利目的を営利の目的から除外すべき実定法上の根拠は見出し難く、又営利目的による覚せい剤取引の違法性の点から見ても、自利目的による場合と他利目的による場合とでその違法性にさしたる違いは存在しないから、これを積極に解すべきである。麻薬取締法六四条二項に関して右と異ると解される最高裁判所第三小法廷昭和四二年三月七日判決の判旨は、当裁判所の与せざるところである。

そうすると被告人鈴木に財産上の利益を得させるという被告人駒田の前記目的は、結局覚せい剤取締法にいわゆる営利の目的に当るものといわなければならない。

(法令の適用)

被告人両名の判示所為はいずれも覚せい剤取締法四一条の二第二項、一項二号、一七条三項、刑法六〇条に該当するところ、被告人鈴木については情状により所定刑中有期懲役刑及び罰金刑を選択し、その所定刑期及び金額の範囲内で懲役四年及び罰金五〇万円に処し、被告人駒田については所定刑中懲役刑のみを選択し、その所定刑期の範囲内で懲役一年八月に処し、刑法二一条を適用して未決勾留日数中被告人鈴木については一四〇日、被告人駒田に対しては一三〇日をそれぞれその懲役刑に算入することとし、被告人鈴木において右罰金を完納することができないときは、同法一八条により金二、五〇〇円を一日に換算した期間同被告人を労役場に留置することとし、訴訟費用については、刑事訴訟法一八一条一項本文、一八二条により被告人両名に連帯して負担させることとする。

(量刑の事情)

被告人鈴木の判示犯行は、暴力団組織内における覚せい剤取引に関連したものであり、取引量も五〇〇グラムという大量であって、その覚せい剤は同被告人及び岡川を通じて末端へ流れ、しかも同被告人を通じて末端へ流れた覚せい剤は前記のように右五〇〇グラムに止らなかったのであり、又本件に際しては組長の立場を利用して組員の被告人駒田も本件犯行に巻き込むなどその犯情は悪質である。被告人駒田は昭和五五年八月八日大阪地方裁判所で覚せい剤取締法違反の罪で懲役一年、執行猶予三年の判決を受け、現にその執行猶予中の身であるのにもかかわらず、一旦は被告人鈴木に「覚せい剤には手を出さない方がいいと思うが」と進言したものの、被告人鈴木がこれを受け入れないと見るや前記のとおり五〇〇グラムに及ぶ大量の覚せい剤の判示取引の重要な部分を担当して積極的に被告人鈴木の本件犯行に加功したものであって、同被告人の犯情も又重いものといわなければならない。

ただ被告人鈴木は昭和四二年一二月以降処罰を受けたことはなく、右本件犯行後やくざの世界の冷酷さを知って鈴木組を解散し、更生を誓っていること、被告人駒田には自ら利益を得ようとする意思はなく、又現在は反省を誓っており、その家庭にも同情すべき事情もあるうえ、必然的に前記の執行猶予が取消されてその刑の執行をも併わせ受けなければならない等の事情を斟酌すると、懲役刑についてはそれぞれその主文の刑が相当であると思料する。

なお被告人鈴木に併科する罰金については、同被告人は判示取引の直後、仲介人の岡本が逮捕されたのを奇貨として、売主側からの後払い分代金請求に対して右取引には心当りはない旨強弁してその支払いを免れ、結果的に右代金額二〇〇万円相当の利益を得ていることが認められるが、右利得は後発的な事情とそれに乗じた別個の違法行為に基づくものであって、罰金刑併科の根拠となる営利目的と直接の因果関係はないものである。従って本件において右利得を同被告人に科すべき罰金額の基礎とするのは相当とはいい難く、これを除く前記認定のような諸般の事情を勘案して主文のとおり罰金額を量刑した次第である。

よって主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 西村清治 裁判官 国枝和彦 太田善康)

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